（小説）大好きな気持ち １１（最終回）

実は、ルルーシュはちょっとした病気でした。

「おかえり、…ルル。…おかえり…」
「…う、…う～…」

もはや言葉にならないようだ。ルルーシュはスザクにしがみつき、小さな子供のように泣きじゃくっている。
パイロットスーツ越しでも、爪が食い込んでくるのがわかる。
わずかに感じる痛みを、スザクは嬉しく思った。

（…ルルは、ルルなんだな…）

元に戻っても、うさぎになったしまったルルーシュも。
することは同じだ。
うさぎさったルルーシュも、スザクから決して離れまいと必死に爪を食い込ませていた。

「…さっきの、お返し」

スザクは、さっきルルーシュがしてくれたように、涙に濡れた目元を舌で舐めてやった。

「…しょっぱいね、今日は二人とも塩分とりすぎかな…？」
「ば…馬鹿っ…」

ルルーシュの顔にようやく笑顔が戻る。
泣き笑う頬のあちこちに、キスをして、ルルーシュの存在を確かめる。
キスを交わし合えることの喜びを、抱き合えることの喜びを、かみしめた。
柔らかな唇を指でなぞり、そっとくちづけた。
何度か触れるだけのキスを繰り返していたら、「…もっと」とルルーシュが舌を差し出してきた。
そうえいば、半うさぎの時に、舌を入れるキスがしたい、と駄々をこねていた。
あの時は、そのままおかしな気分になっては困るからと拒絶したけれど、今日はもう遠慮する必要はないのだ。

「…いいよ、…もっと、キスしようか…。べろ、だして」
「…ん」

ピンク色の可愛らしい舌。それを食むようにして、舌を絡ませた。
ルルーシュもいつも以上に積極的だった。
それだけ、お互いが足りなかったということだろう。
甘いキスに酔いしれながらも、ふと、スザクはあることに気づいた。

（…そういえば）

ルルーシュが戻ったきっかけ。
それが、「きっかけ」だったのか、偶然だったのかはわからないけれど。
キスをしながらも、思わず笑みがこぼれた。
ルルーシュが不満気に鼻を慣らす。

「…おまえ、なんだよ、…こんな時に…。集中しろ、よ」
「ごめん…。たださ、…気づいちゃって…」
「何に？」

綺麗な瞳で、ルルーシュがじろりと睨んだ。
えい、と鼻がつままれる。
どうやら、キスの途中で別のことを考えたことへのお仕置きらしい。
なんという可愛らしさ。

「…いや、…さ。ルルは、やっぱり、皇子様なんだな、と思って…」
「…な、なんだよ…それって、どういうい…」
「だって…おとぎ話では、お姫様は王子様のキスで目覚めるだろ？　それに似てるじゃないか。…キスして、元に戻ったから…」
「…それだと、…お前、自分のことを王子だって言ってるようなものだぞ…。ちょ、ちょっと…うぬぼれてないか…」

ルルーシュはそう言って、くすくすと笑う。
そして、頬の肉をむにゅっと摘んだ。

「…とんだうぬぼれ屋だな、スザクは…。…まあ、…かっこいいけど、さ…」
「ありがとう。…君は、かっこよくて、可愛いよ」

相手を、大好きだと思う気持ち。
胸いっぱいにあたたかな感情が満ちあふれてくる。
多分、二人とも同じように感じているはずだ。
再び、唇を重ね合わせようとしたその時だった。

「スザクく〜ん！　やっとわかったよお…。ルルーシュ様のご病気だけど…」
「ルルーシュっ…！　大丈夫かい！？」

破壊されたドアを乗り越え、ロイドとシュナイゼルが入ってきた。
二人の目に入ってきたのは、パイロットスーツ姿の（片手には拳銃）スザクに抱きしめられた、全裸のルルーシュである。
しかも、ルルーシュは泣きはらした真っ赤な目をしており…見る者によっては、
とんでもない想像をかきたてられる光景であった。

「な、なな…、ルルルル…ルルーシュ、…なんてかっこう…」
「なんで、…兄上たちが、ここにっ…！」
「あ〜れ〜、もしかしてお邪魔だったあ？」

三種三様の叫び。
どうやら、このままゆっくりは出来なさそうだ。


ロイドがあちこちの文献をひっくりかえし、ようやく調べた結果によれば、
ルルーシュの今回の症状は、人間でいうところの「花粉症」であった。

どうやら、ルルーシュは桜のアレルギーがあるらしく（満開の時期限定だが）、
花見の時に吸い込んだ花粉の影響で、今回のような事態に陥ったらしい、とのことだった。

どんなに綺麗に桜が咲いても、今後は二度と花見はすまい、と。
スザクとルルーシュはかたく心に誓ったのであった。